脳神経系は個性を持った神経細胞が神経回路を形成し組織化されることでシステムとして機能を生み出している。しかし、この脳神経系における神経細胞の多様化と組織化をもたらす分子メカニズムについては十分に明らかになっていない。クラスター型プロトカドヘリンに属するCNR/プロトカドヘリンα分子群は、神経回路形成やシナプス形成に関わる神経細胞間認識に関わる14種類のアイソフォームで構成される多様化膜分子群であり、個々の神経細胞で差次的発現をすることが知られていることから、神経細胞の個性をもたらす分子群であることが示唆されている。 そこで本研究ではCNR/プロトカドヘリンαの特徴である分子的多様性や個々の神経細胞での差次的発現は脳システム構築においてどのような生理学的意義があるのかを明らかにするために、CNR/プロトカドヘリンα分子群の発現するアイソフォーム数を減少させ、同分子群の多様性を変化させた種々の遺伝子改変マウスを作製、解析した。 作製した各遺伝子改変マウスは外見上、野生型マウスとの相違は認められなかった。また、これらの遺伝子変換マウスにおけるCNR/プロトカドヘリンα分子群の発現を、定量PCR法、in situハイブリダイゼーション法、単一神経細胞での発現解析法より詳細に解析をしたところ、発現するアイソフォーム数を変換させても同遺伝子全体の発現量に大きな変化は無かった。このことからCNR/プロトカドヘリンα分子群には常に発現量を一定に保つ機構が存在することが明らかになった。さらに同遺伝子にはアイソフォームを確率的に発現するメカニズムと恒常的に発現するメカニズムが存在することも示唆された。
|