目的.我々は最近マウスの視索前野(POA)及び前脳基底部(BFB)において睡眠時あるいは覚醒時に特異的に活動するニューロン(睡眠ニューロン/覚醒ニューロン)を見出し、睡眠・覚醒状態の移行期おけるPOA/BFB睡眠ニューロンの活動の変化は、POA/BFB覚醒ニューロン及び視床下部後部(PH)のヒスタミンニューロンやオレキシンニューロン等の覚醒ニューロンの活動変化に遅れることを示した。この睡眠・覚醒の切替機構をさらに明らかにするため、POA/BFBの睡眠/覚醒ニューロン活動を調節しているとされる青斑核(LC)ノルアドレナリン(NA)ニューロンの単一ユニット活動をマウスの睡眠・覚醒サイクルで記録した。結果.LC-NAニューロンは覚醒時に不規則な持続的活動を示し、徐波睡眠開始の指標である脳波の同期化に先行して活動を完全に停止した。この移行期において、LC-NAニューロンの活動は徐波睡眠およびPOA/BFB睡眠ニューロンの活動開始に1秒程度先行して有意に低下していた。音による覚醒刺激に対しては、単発又は2-3発のスパイクによる応答を示し、その潜時は11.2±1.9ms(平均±標準偏差、n=48)と短かった。自発的な徐波睡眠から覚醒への移行期では、覚醒の指標となる脳波の脱同期化の前にスパイク発火を開始した。その先行時間は、移行期に頸筋電図の大きな変動を伴う場合には361.1±129.2ms(平均±標準偏差、n=105)、変動を伴わない場合には986.4±549.1ms(n=208)であり、POA/BFBやPHの覚醒ニューロンのそれよりも有意に長かった。結論。以上の結果は、LC-NAニューロンの活動が持続的かつ相同的な覚醒の維持に関与し、その活動の変化が覚醒と睡眠の切替機構においてきわめて重要な役割を果たしていることを示唆している。
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