本研究では、分散培養下の海馬神経細胞を実験系に選び、抑制性シナプスの可塑的な変化がどのような分子基盤の上に成り立っているのかを明らかにするため、分子生物学的手法、リアルタイム画像解析法、電気生理学的手法を総合して解析することを目的としている。平成20年度は、抑制性シナプスの可視化に取り組んだ。抑制性シナプス前部を可視化するために、抑制性神経細胞に蛍光蛋白質(Venus)を発現する遺伝子改変動物を用いた。一方、抑制性シナプス後部機能分子(gephyrin)にVenusとは異なる蛍光スペクトルをもつ蛍光蛋白質(mCherry)をつないだ遺伝子をアデノウイルスを用いて細胞内に導入した。これらの2種類の蛍光蛋白質を共焦点レーザー顕微鏡を用いて観察することにより、抑制性シナプス前部と抑制性シナプス後部が接した抑制性シナプス部位を可視化することに成功した。可視化した抑制性シナプスを経時的に観察することにより、以下の3点について明らかになった。(1)抑制性シナプス前部及び抑制性シナプス後部機能分子は、その形態・局在がダイナミックに変化する。(2)形態・局在変化の程度は、神経細胞の培養日数が早い時期ほど大きい。(3)抑制性シナプス前部と抑制性シナプス後部機能分子の形態・局在変化には相関関係がある。以上の結果から、平成21年度は、このような抑制性シナプスの形態及び局在変化が、機能的にどのような意味をもつのかを、電気生理学的手法とリアルタイム画像解析法を組み合わせて、明らかにしていきたいと考えている。
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