研究概要 |
昨年度の研究実績においてパーキンソン病(PD)に対する両側視床下核(STN)深部脳刺激術(DBS)の治療効果を向上する因子としては術前における薬物治療の反応性が最も重要であることを報告した.平成21年度は更なる治療成績の向上を図る目的で本邦の主要なDBS治療施設における神経内科医,脳神経外科医と連携し,DBS症例のデータベース化によりケースコントロール及びコホート解析を行うための基盤作成を行った.過去10年にMedlineに掲載されたPDのSTN-DBSに関連する研究論文のメタ解析結果と本邦でのDBS治療基準の妥当性について検討を行った.その結果,DBS治療の適応基準の画一化を図る目的で,医療従事者及び患者用の各々に対してDBS治療の適応判定,手順,術後の管理等を掲載したパンフレットの作成を行うことを決定した.また,DBS治療施設間における効果の均一化を図る目的で,より詳細に手術適応基準や治療前後評価項目等に関する指針を明文化し,治療合併症の報告や術後の使用薬剤等を登録するデータベースを作成することを決定した.情動を司る大脳辺縁系と連絡する領域を有するSTNにDBSを行うことで,精神神経症状が誘発される可能性が示唆されている. STN-DBS後に現れる精神神経症状のうち,アパシー(無気力,無感動,無関心)の出現は精神的無動症を引き起こすため,DBSによる純粋な運動症状改善効果の判定が困難となり,重篤な症例では臥床傾向となるため入院期間の延長が余儀なくされる.我々は,術後に出現するアパシーと術前後の臨床症候との関連性を検討した.結果,術後アパシーの出現は術前における薬剤性不随意運動であるジスキネジアの重症度と関連し,術後の過度な抗PD薬の減量が関与していることを見いだした.この結果は術後管理の向上や入院期間の短縮を図る上で重要であると考えられた.DBS治療群と薬物治療群の長期観察における医療経済効果の比較検討も症例数を更に加えて継続中である.
|