α-synucleinの異常により、ドーパミン作動性ニューロンが特に変性し易いという病理学的所見に基づき、ドーパミン神経細胞株にヒトα-synucleinを導入発現させたところ、ドーパミン生合成律速酵素であるチロシン水酸化酵素(TH)のmRNAレベルでの発現抑制を見出し、α-synucleinが転写レベルで遺伝子制御に関わっている可能性を見出した。これと対応して、正常ラット脳において広範囲の神経細胞核内にα-synucleinが局在する事を、新規開発した単クローン抗体による免疫組織化学で確認し、脳から精製した核画分のWestern blot解析でα-synucleinを生化学的に検出した。これはα-synucleinが哺乳類の脳神経細胞核に局在する事を確立した初めて報告である。因みにタウも核内に存在する事が知られているがその生理機能は解明されておらず、この局面でもα-synucleinとの相似性が見出される。さらに、我々は酸化的ストレスによりα-synudeinが核内に移行する現象を見出した。他方、上記の単クローン抗体を用いて、α-synudeinの脳神経細胞内の局在を、免疫電顕法を用いて詳細に検討したところ新たな知見が得られた。即ち、α-synucleinはシナプス前部、細胞核のみならず、ミトコンドリアに局在が確認された。ミトコンドリア外膜、内膜、その間隙、マトリックスそれぞれに局在する免疫電顕像が得られた。さらに、ラット脳を用いて脳領域別にミトコンドリアを単離精製してWestern blot解析したところ、神経変性し易い脳領域、即ち海馬、嗅球、線上体のミトコンドリアにα-synucleinが多くみられた。精製したミトコンドリアにα-synucleinを添加すると、α-synucleinの量に依存して複合体Iの活性が抑制された。これらから、α-synudeinの機能の一つとしてミトコンドリアでの機能の存在が確認され、複合体Iを抑制する事から、α-synucleinの異常、特に量的な増大が、ミトコンドリアの機能異常に直接関連する可能性が示唆された。
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