最近、私たちはホメオティック因子ATBF1(AT-motif binding factor1)を同定し、ATBF1がアルツハイマー病(AD)脳やADモデルマウスの脳の神経細胞において顕著に発現が上昇していることを明らかにした。前年度はアルツハイマー病脳でATBF1が上昇する分子機構と意義の解明をするため実験を行った結果、AD脳においてATBF1の発現上昇はAβにより引き起こされたDNAダメージに対する反応であることを明らかにした。さらに、ATBF1は神経細胞死を誘導する因子であるATMのシグナルを促進することによって神経細胞死を誘導することが分かった。本年度はATBF1がアミロイドβ蛋白(Aβ)の産生には影響がないかを考え、アミロイド前駆体タンパク質(APP)代謝及びAβ産生におけるATBF1の影響を調べた。 A.研究方法 1)HEK293T細胞にATBF1とAPPを過剰発現した後、分泌されたAβ量をELISA法で、2)HEK293T細胞にATBF1とAPPを過剰発現した後、ATBF1とAPPの結合を免疫沈降法で、3)HEK293T細胞やSH-SY5Y細胞にATBF1とAPPを過剰発現した後、ATBF1の局在を蛍光免疫染色で調べた。4)ATBF1ノックアウトマウス作製。 B.研究結果と考察 1)APP代謝およびAβ産生におけるATBF1の機機能解明のための結果。(1)HEK293T細胞にATBF1を過剰発現させることでAβ40およびAβ42の産生が促進された。(2)ATBF1はAPPのC-末端と結合した。(3)HEK293T細胞やSH-SY5Y細胞にATBF1を発現させるとATBF1は核に局在するが、APPを高発現させるとATBF1は核に行かずに細胞質に留まった。2)ATBF1ノックアウトマウス作製を行い、キメラマウスまでの作製が終わり、現在F1マウスの作製を行っている。 C.結論 APPとATBF1を高発現されると、核タンパク質であるATBF1はAPPと結合することにより核に行かずに細細胞質に留まり、APPを安定化させることでAβ産生を促進することが分かった。
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