グルタミン酸は中枢神経系の主要な興奮性神経伝達物質である。本研究では中枢神経系に広く発現し、主にシナプス前膜の伝達物質放出部位近傍に存在する代謝型グルタミン酸受容体7型(mGluR7)に注目した。mGluR7遺伝子欠損マウス(mGluR7 KO)は繁殖が困難である。その原因を解明するために、性行動を中心とした社会的行動の詳細な解析を行った。 結果 1. 雄のmGluR7 KOの性行動の解析の結果、マウンティング、挿入の頻度については野性型と大きく違わなかったが、射精の頻度が有意に低下していた。 2. 他のマウスに対する行動異常を解析するために、攻撃行動を観察した。mGluR7 KOでは攻撃行動が有意に低下していた。 3. 性行動および攻撃行動のいずれもが嗅覚系に強く依存することが知られている。嗅覚の異常の有無を解析したところ、mGluR7 KOではにおいの好みが野生型と異なっていた。 4. mGluR7 KOでは血中テストステロンが低値であった。 5. 性行動・攻撃行動のいずれもが、テストステロンに依存することが知られているため、テストステロンを補充して、性行動および攻撃行動を観察したが、補充前の動物と変化なかった。 これらの結果は、mGluR7が性行動および攻撃行動といった社会的行動に重要な役割を果たすことを示すものである。また、性行動・攻撃行動のいずれも嗅覚に強く依存するが、mGluR7 KOにおける、においの好みの異常が、この両方にかかわるか否かを解析し、論文にまとめる予定である。
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