研究概要 |
今年度は、我々が損傷後の中枢神経系で主要な神経阻害因子と考えている線維性瘢痕の機能と形成機序について損傷実験と培養系を用いて調べた。 嗅神経被覆細胞(OEC)の移植は脊髄損傷の治療法として有望視されている。われわれはラット脊髄損傷部にOECを移植し、神経再生と機能回復の促進作用が線維性瘢痕の形成抑制にあることを明らかにした(Teng et al.,2010)。 中枢神経系の損傷部に形成されるグリア瘢痕は、破壊された血液脳関門の修復に重要であることが示されているが、線維性瘢痕の機能はいまだに明らかでない。そこで脳損傷部にIV型コラーゲンの合成阻害剤であるDPYを投与した。すると、脳の組織修復は阻害されずに切断されたドーパミン線維の再生を促進した。この結果は、線維性瘢痕の形成阻害が中枢神経系の神経再生の治療法として有望なことを示している(Yoshioka et al.,2010)。。 線維性瘢痕の形成には、transforming growth factor-β(TGF-β)が関与している。我々はすでに昨年TGF-β受容体が線維性瘢痕を形成する髄膜の線維芽細胞に発現することと、脳のアストロサイトと線維芽細胞の共培養系にTGF-βを添加すると線維性瘢痕と性質の良く似た細胞集塊が形成することを発表した。そこで、マウス黒質線条体ドーパミン神経路の切断部位にTGF-βの機能阻害剤であるLY-364947を連続投与すると、線維性瘢痕の形成が完全に抑制され、神経再生が促進した(Yoshioka et al.,2011)。
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