ブルーリ潰瘍は、熱帯、亜熱帯地域の難治性皮膚疾患であり、大きく深い無痛性の皮膚潰瘍が形成される。我々はM.ulcerans感染マウスでは末梢神経内への抗酸菌の侵入と病変部の知覚低下があることを見い出した。ブルーリ潰瘍における知覚低下の発症機序がわかれば、四肢切断などの悲惨な後遺症を防ぐことができ、国際貢献につながる。 M.ulceransは毒性脂質Mycolactoneを産生する。平成20年度は、Mycolactoneによって末梢神経障害が起きるかを検討した。M.ulceranから精製したMycolactone A/BをBALB/cマウスの足底に注射し、足底腫脹・潰瘍が形成される過程において、経時的に(1〜6週間)足底の痛覚の有無を、知覚検査で確認した。また、マウスを還流固定し、足底の組織標本と電顕標本を作成して、神経病変を検索した。その結果、Mycolactone投与後1週目には知覚過敏が、4週目には知覚低下が起きること、また1〜2週目には神経内に出血と好中球の浸潤があり、4週目には線維化が起こることなどが明らかになった。この研究によって、Mycolactoneによる神経病変が、ブルーリ潰瘍に痛みがない原因に直接関与していると考えられた。研究結果はInfect Immun2008;76:2002-7に発表した。 ガーナのブルーリ潰瘍7例について、抗菌薬治療前後の皮膚組織の皮内末梢神経の形態変化を検索したところ、治療前における軸索の腫大、治療前後の神経変性が認められた。さらに、ベニン共和国のコトヌーで開催された第2回ブルーリ潰瘍対策・研究国際会議(2009年3月30日〜4月3日)においてガーナの共同研究者と打ち合わせを行い、平成21年度では症例数を増やして検討を続けることを確認した。
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