ブルーリ潰瘍は、最近わが国でも症例報告が相次いでいる難治性皮膚疾患であり、大きく深い無痛性の潰瘍が形成される。我々は、病変部には知覚低下があり、起因菌Mycobacterium ulcerans (M.ulcerans)の産生する毒性脂質マイコラクトン(mycolactone)による末梢神経障害によって知覚低下が起きていることを動物実験で証明した。また、化学療法の効果を、動物実験とガーナの症例について病理学的に解析してきた。 本年度は、mycolactoneが末梢神経障害を来す機序を解明するために、末梢神経の主な構成細胞であるシュワン細胞に対する細胞毒性を、線維芽細胞とマクロファージへの毒性と比較検討した。人工合成mycolactone A/Bを段階希釈し、まず培養線維芽細胞(L929)とマクロファージ(J774A.1)への毒性を検討したところ、先行研究とほぼ同じ30ng/mlの濃度で細胞毒性を示した。次に、培養シュワン細胞(SW10)への毒性を線維芽細胞と検討した。培養条件によって多少の増減はあったものの、線維芽細胞と同濃度あるいはより低濃度のmycolactoneで、シュワン細胞は細胞死(トリパンブルー染色の定量)とアポトーシス(TUNEL法によるアポトーシス細胞の定量)を示した。これらの実験結果は、ブルーリ潰瘍における知覚低下がシュワン細胞障害によって起こっていることを強く示唆している。 また、WHOのブルーリ潰瘍対策国際会議・病因解析研究グループの委員長として、イタリアのグループとの協力で、ブルーリ潰瘍の病理診断のための世界的ネットワーク構築のために、ウェブアトラスの作成を始めた(URLは備考に記載)。
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