研究概要 |
〔目的〕本研究の目的は中枢神経原発悪性リンパ腫(PCNSリンパ腫)の脳内浸潤機構、腫瘍発生についてのケモカイン・レセプターおよびEpstein Barr(EB)ウイルスについて役割を解決することであり、PCNSリンパ腫の診断、治療などの臨床応用へと展開するための研究基盤を確立することである。〔対象および方法〕平成20年度〜平成21年度の研究では当施設および関連施設のPCNSリンパ腫67症例を対象とした。方法として腫瘍発生におけるEBウイルスの関与をIn situ hybridization (ISH)法、免疫染色でEB関連蛋白(lateral membrane protei-1 (LMP1), EB nuclear antigen (EBNA)-2)の検索を行った。更にLMP1, EBNA-2陽性例でPCR法を用いてLMP-1 oncogeneの変異の有無、EBNA2の亜型の解析を行った。また臨床病理学的な裏付けを行った。〔結果〕67症例中7例(10.4%)でEB陽性症例が検出された。これらの症例はいずれも背景に免疫機能不全を伴わない60歳以上の男性患者に発生していた。PCNSリンパ腫におけるEBウイルス関連の蛋白レベルの検索結果ではこの7例全例でLMP1,EBNA-2陽性所見が得られた。以上の結果からEB関連のPCNSリンパ腫のEBV関連癌における潜伏感染遺伝子発現型は背景に免疫機能不全を伴わない患者に発生したにもかかわらず、日和見リンパ腫にみられる様式type IIIに相当した。LMP-1 oncogeneの解析では7例中5例で30bpの欠失がみられた(LMP-1-del)が2例ではみられなかった(LMP-1-wild)。EBNA2の亜型の解析では7例中6例でtype A,残り1例がtypeBであった。これらの遺伝子変異の組み合わせは(1)LMP-1-del,type A, (2) LMP-1-wild,type A, (3) LMP-1-wild, type Bであった。(1)の型は5例であり、3例は9カ月以内に患者は死亡した。(2),(3)の型はそれぞれ1例であり、いずれも4カ月以内に患者は死亡した。〔考察及び結論〕i)罹患患者に免疫不全を伴っていないにもかかわらず、PCNSリンパ腫の約1割の症例では腫瘍発生にEBウイルスが関与する。ii)EB関連のPCNSリンパ腫の罹患患者は全例が60歳以上であり、高齢化による免疫機能低下が腫瘍発生原因として推定される。iii) EB関連のPCNSリンパ腫ではLMP-1-delを伴う例が多く、患者の予後は不良である。iv)EB関連のPCNSリンパ腫の潜伏感染遺伝子発現型は蛋白レベルの検索では日和見リンパ腫にみられる様式type IIIに相当するが、LMP-1,EBNA-2などの遺伝子変異の組み合わせでは必ずしも日和見リンパ腫とは一致しない。
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