研究概要 |
目的〕本研究の目的は中枢神経原発悪性リンパ腫(PCNSリンパ腫)の脳内浸潤機構、腫瘍発生についてのケモカイン・レセプターおよびEpstein Barr(EB)ウイルスについて役割を解決することであり、PCNSリンパ腫の診断、治療などの臨床応用へと展開するための研究基盤を確立することである。〔対象および方法〕平成20年度~21年度の研究で対象群の中から見出された免疫不全を伴わない患者に発生したEBウイルス関連PCNSリンパを対象とした。方法としてこれらの症例と脳以外に原発したage-related EBV associated B-cell lymphoma症例との臨床病理学的な比較検討を行った。またこれらの症例についてhypoxia-inducible factor 1 α(HIFα),ケモカイン・レセプターの発現について検討した。〔結果〕EBウイルス関連PCNSリンパ腫におけるEBウイルス関連の蛋白レベルの検索結果ではこの7例全例でLMP1,EBNA-2陽性所見が得られた。臨床的にはこれらの症例はいずれも背景に免疫機能不全を伴わない60歳以上の男性息者に発生していた。以上の結果からEB関連のPCNSリンパ腫のEBV関連癌における潜伏感染遺伝子発現型は背景に免疫機能不全を伴わない患者に発生したにもかかわらず、日和見リンパ腫にみられる様式type IIIに相当した。LMP-1 oncogeneの解析では7例中5例で30bpの欠失がみられた(LMP-1-del)が2例ではみられなかった(LMP-1-wild)。EBNA2の亜型の解析では7例中6例でtype A,残り1例がtype Bであった。age-related EBV associated B-cell lymphoma症例でもほぼ同様の結果が得られ、これら二群の類似性が示唆された。一方でEBウイルス関連PCNSリンパ腫では全例で腫瘍細胞からHIFα,ケモカインCXCL12,ケモカイン・レセプターCXCR4の発現が確認された。〔考察及び結論〕i) EB関連PCNSリンパ腫の潜伏感染遺伝子発現型は日和見リンパ腫にみられる様式type IIIに相当するが、遺伝子変異の組み合わせでは必ずしも日和見リンパ腫とは一致しない。脳以外で発症するage-related EBV associated B-cell lymphoma症例においても類似傾向がみられた。この二つのリンパ腫は全く同一の範疇とは言えないが、近縁疾患と考えられる。ii)EB関連のPCNSリンパ腫の腫瘍発生および増殖においてケモカインCXCL12,ケモカイン・レセプターCXCR4が関与している。とくにHIFαがこれらケモカインCXCL12,ケモカイン・レセプターを調整している可能性がある。
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