近年のアルツハイマー病を含めた神経変性疾患の病態解明と治療法確立を目指した研究の進捗状況には目覚しいものがある。一方で、本年2008年7月にシカゴにて開催された国際アルツハイマー学会では、「アミロイド仮説」を基盤としたアルツハイマー病の治療戦略がことごとく失敗に終わり、新たな標的を求めて戦略を練りなおす必要性に迫られているという現実に直面していることに多くの研究者たちが衝撃を受けていた。このような世界的な研究の流れの中で、老人斑の主要構成成分であるベーダアミロイドではなく、神経原線維変化の主要構成成分であるタウ蛋白の凝集中間体を標的とした治療法の開発は、多くの研究者たちにとって、魅力的な戦略のひとつとなってきた。本年度は、上述した学会において治療効果を評価するのに必須である実験マウスモデルについて、その認知機能の程度とタウ蛋白の生体内における生化学的な挙動変化との間の相関性について報告した。また、タウ蛋白の凝集中間体の物性解析についての総論を論文発表した。さらに、タウ蛋白の細胞毒性という観点から細胞モデルにおけるタウ蛋白凝集中間体の挙動を解析し、その成果報告の準備を進めている。本研究代表者は海外赴任に伴い残念ながら日本国内での科学技術研究費の交付資格を喪失してしまうが、今後もアルツハイマー病を含めた神経変性疾患の病態解明を目的として、とくにタウ蛋白依存性の神経変性疾患発症過程を同定し、治療法の確立に貢献したいと考えている。
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