我々は、APPの場合もγ-セクレターゼによって細胞内ドメインが切り出されることに注目して、NotchやDeltaと同様に、切り出された細胞内ドメインが核に移行して特定の遺伝子の転写を調節し、それがアルツハイマー病の発症と何らかの関係を持っている可能性を考えて本研究をおこなっている。 この可能性を明らかにするために、APPの細胞内ドメイン(AICD)を強制発現するembryonic carcinoma細胞(P19細胞)を作製し、レチノイン酸処理により神経細胞へと分化誘導した。その結果、AICDを発現するP19細胞の場合、神経細胞に分化することにより高率に細胞死をおこすことが明らかとなった。更なる解析の結果、AICDは神経細胞選択的にアポトーシスを誘導すると結論できた。またDNAチップを用いて、この細胞死の過程における遺伝子発現の変化を検討したところ、約0.5%の遺伝子の発現が10倍以上増減しており、AICDがダイナミックに多数の遺伝子の発現を変化させている事を明らかにした。 この培養細胞で見られたAICDによってひき起こされる神経細胞死が、より生理的な状態、例えば個体内でAICDを強制発現させた場合でも起こるのか、またこの細胞死がADの発症を部分的にでも反映しないのかを調べる必要がある。これらの点を明らかにするために、既に、AICDの発現を脳特異的にコントロールできるトランスジェニックマウスを、作製して解析しようとしている。
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