メラニン凝集ホルモン(melanin-concentrating hormone:MCH)は、そのノックアウトにより摂食量が低下し体重が減少する「ヤセ」表現形を示す唯一の神経ペプチドである。1999年、斎藤らはGタンパク質キメラを活用した新規ストラテジーによりオーファンGタンパク質結合型受容体(GPCR)のひとつであるSLC-1がMCH受容体(MCHlR)そのものであることを同定し、創薬開発への最初の突破口を開いた。その後、多くの研究からMCH1Rはうつ不安にも関与することが判明している。平成20年度はハイスループットアッセイ機器FlexstationとMCH1R変異体作成を組み合わせることにより以下の新事実を得た。(1)GPCRにおける高度保存領域DRYは受容体を不活性型として維持する構造であることが広く知られている。しかしMCH1RのDRY領域の機能的役割はその常識とは異なり、Gタンパク質の活性化に直接的に関わる。(2)GPCRアミノ酸置換体によりgain-of-functionとなることは稀である。しかしMCH1Rの1アミノ酸置換により細胞内カルシウム濃度上昇におけるEC50値が5倍以上鋭敏となる箇所を初めて見出すことに成功した。(3)RGSタンパク質はGアルファのGDP-GTP交換反応に関わるGPCRの負の調節因子である。30以上あるRGSの中でMCHIRの調節に関わるものを3種類同定し、それぞれMCH1Rにおける相互作用部位が異なる可能性を見出した。次年度は(2)と相互作用するMCH1R部位の同定、(3)のうつ不安モデルにおけるvivoの変動について研究を進める。
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