ヒトES細胞から神経系の領域に特異的な種々の神経幹細胞および神経細胞を調製する分化誘導法を確立することを目的に、我々が既にマウスES細胞およびサルES細胞について確立したNeural Stem Sphere法(NSS法)を、ヒトES細胞に適用した。ヒトES細胞のコロニーをアストロサイト条件培地(ACM)中で浮遊培養し、NSSを形成させ、培養に伴うマーカー遺伝子のmRNA発現量の変化をリアルタイムRT-PCRで解析した。その結果、ES細胞のマーカー遺伝子であるOct-4およびNanogの発現量は培養によって減少した。一方、神経幹細胞、神経前駆細胞のマーカー遺伝子であるNestinおよびMusashi-1、神経細胞のマーカー遺伝子であるNF-MおよびMAP2の発現量は、培養10日目ごろまでは低値であったが、その後、培養20日目まで増加した。しかし、それぞれ中胚葉、初期内胚葉、表皮系外胚葉、アストロサイト、オリゴデンドロサイトのマーカー遺伝子であるbrachyury、GATA4、Cytokeratin-17、GFAP、MBPの発現量は非常に低値であり、増加しなかった。さらに、NSSをTUNEL法による解析することにより、この間、顕著なアポトーシスは起こらないことを確認した。これらの結果は、時間経過がマウスおよびサルES細胞よりも遅延するが、NSS法によりヒトES細胞を神経幹細胞、神経細胞ヘー方向的に分化できることを示すものであり意義深い。また、浮遊培養が12日目のNSSを接着培養することによって、純度が約90%である神経幹細胞を効率良く調製し、さらに、この均質な神経幹紳胞から選択的に神経細胞あるいはアストロサイトに分化誘導することもできたことは、移植用の細胞を調製する上で重要である。
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