ニコチン受容体(nAChR)は「感覚ゲート」の調節などを介して認知機能に関与する注意・集中力に重要であることが知られている。nAChRには内在性リガンドであるAChの他に、喫煙などによって摂取されるニコチンが作用する。nAChRにはアゴニスト刺激により速やかに脱感作されるという顕著な特徴があり、喫煙者の脳にみられる長期間に渡るニコチン刺激の作用や、内在性AChの作用を説明するためには、nAChR系を修飾する未知のメカニズムが機能している可能性が考えられるがその詳細は不明である。SLURP-1(secreted Ly-6/urokinase plasminogen activator receptor-related protein-1)は、10カ所のシステイン残基間のジスルフィド結合により保持される構造により、αブンガロトキシンに代表されるヘビ毒やカエル毒と立体構造上の高い相同性をもつ蛋白質である。本年度はSLURP-1に対する特異抗体を作製してラットおよびマウス組織での発現部位の検討を行った。SLURP-1の発現は神経系では広範な領域で認められたが、特に脊髄後角の膠様質で強い発現が観察された。この部位は一次知覚神経の入力部位であるが、SLURP-1陽性細胞は脊髄後根神経節のSubstance P(SP)やカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)含有神経の一部(ペプチド含有の無髄C線維)であることが判明した。ニコチン及びその誘導体には強力な鎮痛作用があることが知られているが、そのメカニズムの詳細は分かっていない。我々はさらに、SLURP-1がSPやCGRPなどの神経ペプチドと同一の分泌小胞に含まれるとの電子顕微鏡での知見も得ており、神経ペプチドとともに放出されるSLURP-1が侵害刺激伝達の修飾因子として働く可能性が考えられる。
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