本研究は、うつ病などを含む気分障害のモデルとなるストレス負荷動物に対して酸化ストレスの効果的な抑制剤である水素分子を投与することで、ストレスによって生じる酸化ストレスを抑制、海馬におけるニューロン新生の低下を回復し、海馬に依存した認知・記憶障害やうつ症状の抑制について検討するものである。主要な結果は、Neuropsycopharmacology誌で報告した。 マウスに6週間、1日10時間の拘束ストレスを負荷し、水素を飽和量含有する水(水素水)を与える実験を行った。水迷路テスト、受動回避テスト、新奇物体探索テストの結果から、ストレスで生じた認知・記憶障害が水素水の投与により抑制されることが判明した。また、拘束により海馬歯状回における神経前駆細胞新生低下が認められたが、これも水素水の投与群では抑制されていた。さらに拘束ストレスによって蓄積する海馬領域の酸化ストレス(4-HNEやMDAを指標とした)は、水素水の投与により抑制されていた。しかし、複数のストレスを組み合わせて与えるうつモデルでは水素水の効果を検証できなかった。しかし、このモデルでも神経前駆細胞新生低下が水素水の投与で抑制されたことから、神経細胞に対する水素の効果を培養細胞(神経芽細胞SH-SY5Y)で詳細に検討した。現在までの所、水素分子にはミトコンドリア膜電位を上昇させ、ATP合成を促進する傾向が見られる。今後、その詳細な分子メカニズムを検討する。
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