研究概要 |
私たちは発達期海馬や大脳皮質において、シナプス伝達の長期増強に伴い他のシナプスに、内因性カンナビノイドに依存するシナプス前性「ヘテロシナプス性長期抑圧」が誘発されることを報告した(Yasuda et al.,PNAS 2008,Huang et al.,J.Neurosci.,2008)。一方シナプス後性の長期抑圧も海馬や大脳皮質でよく発現していることがわかっている。私たちは、タンパク質リン酸化酵素PKN1ノックアウト(KO)したマウス発達期海馬において、ホモ・ヘテロシナプス性を含めてシナプス後性発現長期抑圧が亢進していることを見いだした。そこでマウスに見られる長期抑圧の性質とともに、長期抑圧の生理的役割を検討することにした。 PKN KOマウスにおける長期抑圧に関して、 1、生後1-2週令において、ホモシナプス性長期抑圧が亢進しており、かつヘテロシナプス性長期抑圧が付随して誘発される。これらはNMDA受容体、および代謝型グルタミン酸受容体依存性である。生後3週には野生型と差がなくなる。 2、PKNはシナプス後部で作用しており、亢進した長期抑圧はシナプス後性の発現をしめし、エンドサイトーシスが関与している。3、KOマウスにおいては、長期抑圧が亢進している生後0-2週の間は、野生型マウスに比べてシナプス伝達が未発達で、サイレントシナプスが多い。またPKN KOマウスでは長期抑圧誘発刺激によってサイレントシナプスがより多く発現する。 以上、3点が明らかになった。すなわち発達期海馬においてPKN1は、幼若期に発現しているシナプス伝達長期抑圧を抑制することによって、シナプス発達を促進していることがわかった。
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