研究概要 |
本研究では、視覚イメージを部分的な要素画像から段階的に組み立てるダイナミックな操作の基盤となる大脳の前頭前野を含んだ神経ネットワークの動作原理を解明することを目指す。このために1. 要素図形を組み合わせた複合図形により別の物を象徴として表す課題をマカクザルが学習できるかどうかを行動学的に検証し、2. 覚醒下慢性サル標本にて電気生理記録実験を行う、という二つの技術的下位目標を立てた。 第一の技術目標のため、マカクザルの慢性実験標本に新しい行動課題を導入した。実験制御システムの構築は、研究代表者のサル慢性実験の実績を拡張して行った。当該年度には一頭目のマカクザルで訓練を開始した。動物実験にあたっては新潟大学の動物実験規則を遵守し、ニホンザルバイオリソース運営委員会の指針およびNIHのガイドラインに従っている。 まず、オペラント条件付けによって遅延見本合わせ課題(コントロール課題)、次いで構成見本合わせ課題(本課題1)の訓練を行ったところ、本課題1をマカクザルが学習できることがわかった。本課題1では、複数の要素図形からなる複合図形が目標図形として提示され、遅延期間後にサルは順次要素図形を選んで目標図形を再構成しなければならない。見本刺激そのものを再認するコントロール課題に比べると、本課題1では計画的に、目標図形を念頭に要素を組み立てることが要求される。現在、本課題1をさらに発展させチンパンジーの認知心理研究で実績を持つ象徴構成見本合わせ課題(本課題2 J Comp Psychol 104, 345, 1990)の学習に挑戦している。本課題1に比べると、本課題2では目標図形が画像として呈示されないため、象徴として呈示された視覚刺激から目標図形自体をイメージし、「イメージしたものをさらに頭の中で組み立てる」認知プロセスの脳内メカニズムを調べられる、という利点がある。
|