研究概要 |
従来,睡眠と記億との関連性が指摘されてきた.本研究の目的は,サルを用い,記憶形成の首座とされる海馬の神経活動やシナプス可塑性(長期増強(LTP)の誘導・維持)を覚醒時と睡眠時で比較・解析することにより,霊長類の記憶形成・貯蔵における睡眠の機能的意義とそのメカニズムを明らかにすることである.そのため今年度は,前年度開発したサルの行動(画像),皮質脳波,海馬脳波,眼球電図および筋電図を連続記録するデータ収集システムを用いて,サルが実験室のゲージ内で夜間に眠っているときの各種活動を記録し,睡眠ステージと海馬脳波活動との相関を解析した. サルの平均睡眠時間は約9時間であり,平均睡眠率は73.7%であった.各睡眠ステージの割合は,ステージI-IIが67.7%,睡眠ステージIII-IVが10.4%,REM睡眠期が21.0%であった.各睡眠ステージにおける海馬脳波をスペクトル解析した結果,その振幅は覚醒時を基準とすると,δ帯域は睡眠ステージI-IIで1.6倍,睡眠ステージIII-IVで2.1倍,θ帯域は睡眠ステージI-IIで1.5倍,睡眠ステージIII-IVで1.6倍に増加したが,明瞭な鋭波は認めなかった.REM睡眠期では,γ帯域だけが1.2倍に増加した.以上の結果より,(1)サルの睡眠構造はヒトに類似するが,ヒトよりも,睡眠ステージI-IIとREM睡眠期は多く睡眠ステージIII-IVは少ない傾向が認められた.(2)Non-REM睡眠期やREM睡眠期に,それぞれ,鋭波やθ波は優位には出現せず,げっ歯類と霊長類との間に動物種差のあることが明らかとなった.
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