哺乳類の呼吸リズム生成機構は、新生児期のペースメーカー型から成人期のネットワーク型へ出生後の発育に伴い大きく変化する。in situ標本は、経大動脈的に脳幹を灌流してin vivoとほぼ同等の脳幹機能を保つ標本で、侵襲的操作に対して安定した脳循環、組織酸素レベルを保つことのできる標本である。本研究の目的は、新生児型呼吸リズム生成機構が、いつ、どのような過程を経て成人型呼吸リズム生成機構へ変化していくのかを明らかにすることである。本研究の遂行には、in situ標本作製技術の確立が必須である。さらに、腹側表面に極めて近い(〜200μm)ところに位置する呼吸ニューロンを記録するために、アプローチが容易な背側からではなく、腹側からアプローチ可能な標本を作製する必要がある。従って、本研究年度は腹側アプローチ可能なin situ標本の作成技術の確立に努めた。その結果、P7-P14日齢のラットでは、安定して腹側延髄を露出させてガラス電極の刺入が可能な状態で、横隔神経から呼吸活動を記録することができるようになった。また、延髄腹外側から漸増性吸息性ニューロンや漸減性呼息性ニューロンなど様々な呼吸ニューロンを細胞外記録することができた。本年度でin situ標本作製の技術的問題が解消できたことにより、次年度は発達に伴う呼吸リズム形成機構の変遷について薬理学的検討および膜電位イメージングによる検討を行う準備が整ったことは、大いに意義があると考えている。
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