本研究の目的は、利他行動、すなわち自身の損失を覚悟して他者に恩恵を与えるために行う行動の誘発要因を明らかにすることである。本研究では利他行動をその遂行の随意性と利己的動機の関与から、義務としての利他行動、互恵的利他行動、そして無償の自発的利他行動に3分類し、なかでも無償の自発的利他行動の誘発要因として共感が重要であるという仮説を検証する。 本年度は、自発的利他行動を実験動物(霊長類サル)を使って観察する行動課題を模索した。2頭のサルを共通のテーブルを介して対座させた。一方のサル(サルA)がテーブル上のスタートボタンに右手を一定時間置いていると、2つの異なる色のターゲットボタンが同時に点灯するようにした。サルAは、いずれか一方のボタンを一定時間内に選択すれば報酬としてジュースを得ることができた。一方、サルAが黄色ボタンを押せば他方のサル(サルB)には何も起きないが、緑色ボタンを押せばサルBにはair-puff刺激が加えられるという操作を行った。左右どちらにどの色が点灯するかは、試行毎にランダムに決められた。また、ボタンの色とairpuffの組み合わせは50〜100試行毎に逆転させた(ブロックデザイン)。 対座する2頭のサルは、互いに威嚇したり攻撃しあったりすることなく、この行動課題を長時間にわたり遂行することが可能であることが確かめられた。今後、サルに課題を継続して行わせ、その行動パターンを詳細に解析し、利他行動を誘発する課題として適切かどうかの検討を加えてゆく。
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