利他行動の発現には、他者の信念、行動、欲求、あるいは感情を理解することが重要である。これまでの研究から、大脳皮質外側部(腹側運動前野や下頭葉小葉)が他者の行動理解に、大脳皮質内側部(特に前部帯状皮質)が他者の感情理解に関与することが示唆されている。しかし、大脳皮質内側部が、他者の行動理解にも関与しているかどうかについては、詳しくわかっていない。この点を明らかにするため、2頭のニホンザルを同時に用いた役割交替課題を考案した。この行動課題では、2試行毎に行動遂行役と行動観察役が入れ替わる。特に、他者の行動観察を通じて、自己の適切な行動プランニングを行うことが要求された。 課題遂行中のサルの前頭葉内側部、特に、前補足運動野とその前方領域、ならびに前部帯状皮質から単一神経細胞活動を記録した。その結果、他者の行動を正しく理解することができた2頭のニホンザルにおいては、自己の行動を表現する細胞(自己タイプ)に加え、他者の行動に特異的に応答する細胞(他者タイプ)や、自己と他者の行動に共通して応答する細胞(ミラータイプ)が多数見出された。興味深いことに、他者の行動を正しく理解できなかった1頭のサルにおいては、自己タイプ細胞は多数見出されたものの、他者タイプ細胞やミラータイプ細胞は極めて少数であった。以上の結果は、前頭葉内側部に存在する他者タイプ細胞やミラータイプ細胞が、他者の行動理解に関与していることを示唆している。
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