小脳プルキンエ細胞におけるシナプス可塑性の分子メカニズムを解明するために、アンパ型グルタミン酸受容体のサブタイプGluR2の分布を可視化し、その動態、細胞形態との関連を解析することを目的とした。セムリキ森林ウイルス(SFV)ベクターを用いて、緑色蛍光蛋白質GFPで標識したGluR2を培養小脳プルキンエ細胞に発現させた。SFVベクターを用いた場合、発現効率は低かった(数%)が、GFP-GluR2の発現した細胞では発現量は多く、スパイン部にいたるまで、GFP-GluR2の分布を確認できた。しかし、感染後、24時間以内に細胞変性が生じた。そこで感染後10-14時間の時点で、シナプス伝達の長期抑圧LTDを惹き起こす化学刺激を与え、生じるGFP-GluR2の分布変化を画像解析している。 さらには高い発現効率で、より長期にわたり安定した発現が期待できるレンチウイルスベクターを用いることを検討した。レンチウイルスベクターは遺伝子構成の異なる株がいくつか知られているが、そのうち1種類にGFP-GluR2遺伝子を組み込み、培養プルキンエ細胞における発現効率を調べた。しかし、条件を変えて検討しても、GFP-GluR2の発現は見られず、レンチウイルスベクターを用いた場合は大きな遺伝子(約4kbp)の発現は難しいことがわかった。そこで感染効率が高く毒性が低いといわれる改良型シンドビスウイルスベクターに、GFP-GluR2、あるいはDsRed-GluR2を挿入し、用いることを検討している。一方、細胞形態を観察するために、2種類のレンチウイルスベクターにGFP遺伝子を組込み、培養プルキンエ細胞に発現させた。発現効率には著しい差異があったが、幸い、高い感染効率でGFPを発現するレンチウイルスベクターを見出すことができた。来年度は2重染色を試みる。
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