運動学習の中心である小脳において、出力細胞であるプルキンエ細胞シナプスの伝達効率が長期間にわたり低下することが知られている(長期抑圧LTD)。この機能的変化に伴う構造変化は従来知られていなかった。我々はシナプスの存在する樹状突起スパイン部に注目し、培養したラット、プルキンエ細胞にレンチウイルスベクターを用いて緑色蛍光蛋白質GFPを発現させ、共焦点蛍光レーザー顕微鏡を用いてタイムラプス記録法によってスパイン形態を観察しながら化学刺激によりLTDを生起させた。一方、赤色蛍光蛋白質mCherryでラベルしたアンパ型グルタミン酸受容体のサブタイプGluA2をシンドビスウイルスベクターを用いて同時に発現させ、化学LTD刺激に伴う変化を観察した。その結果、化学LTD刺激により、GFPで示されるスパイン形態は変化せず、mCherryでラベルされたGluA2細胞内プールがスパインから樹状突起シャフト部にトランスロケートすることを見出した。このことは機能的には細胞内GluR2のエクソサイトーシスを介したシナプス膜への挿入速度がLTDに伴い、遅くなっていることを予想させた。そこで電気生理学的に調べたところ、挿入速度の遅延が確認された。また、アクチン脱重合阻害剤はGluA2トランスロケーションを阻害したことから、生理的にはLIMキナーゼが関与していると考え、LIMキナーゼの膜透過型阻害ペプチドを投与したが、効果は認められなかった。この研究で初めてGluA2細胞内プールがLTDに伴い、トランスロケートすることが示された。このトランスロケーションによるGluA2膜挿入速度の低下がLTDのメカニズムであることが明らかになった。この事実を生体内で確認することにより、運動に伴う学習マップを描くことに展望が開けた。
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