哺乳類の歩行の際の駆動力を生み出す基本的な筋活動パターンは脊髄に局在する神経回路網で形成される。しかしどのような神経機構によってこのパターンが生み出されているのかはほとんどわかっていない。本研究では、遺伝子改変マウスを用いて歩行運動の際の左右の後肢、および屈筋・伸筋の交代性のパターンの形成に重要な役割を担っている脊髄抑制性ニューロンの局在と電気生理学的性質および軸索と樹状突起の形態を明らかにすることを目的としている。本研究計画一年目の平成20年度は抑制性ニューロンが特異的に蛍光色素蛋白質green fluorescent protein(EGFP)を発現するGAD67-EGFPノックインマウス新生児の脊髄摘出標本を用いて可視下に同定した抑制性ニューロンに関してホールセル・パッチクランプ法を用いて、その細胞膜の電気生理学的性質および歩行運動様リズム活動の際の発火パターンを調べた。その結果、マウスの吻側腰髄に局在する抑制性介在ニューロンの一群が、リズミックな発火パターン、形態学的特徴や歩行運動様リズム活動の際のシナプス入力様式に共通の性質を持つことを見いだした。これらのニューロンはリズミックな強いシナプス入力を受け、近傍の運動ニューロンとは逆位相のタイミングで発火する。これらのことから本研究で同定された抑制性介在ニューロンが歩行運動の発現、特に屈筋・伸筋の交代性パターン形成になんらかの役割を担っており、さらには感覚と運動の機能統合に関わっていることが示唆された。今後1はさらにこの一群の電気生理学的性質および形態学的特徴を詳細に調べて行く予定である。
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