様々な不整脈が発生し、修飾因子が是正されているにもかかわらず、不整脈がコントロールされないことも多い。このことから病的心筋では心筋イオンチャネルの電気生理学的特性の変化が示唆されており、我々はクロライドチャネルが重要な役割をしていると考えている。本研究では、膜伸展によるイノシトールリン脂質(PIP2、PIP3)を介した容積感受性クロライドチャネル(VRAC)の調節を明らかにすることで、イノシトールリン脂質とVRACと病態モデルとの関係の全体像を明らかにすることを目的とした。平成20年度に報告ではIDDMモデル動物における検討からPIP3とVRACの関係(J Physiol Sci 2009)を、平成21年度には、生体内でPIP3の産生に関与しているものの一つであるα1受容体刺激による心筋VRACとの関係(Br.J.Pharmacol.2010)についての報告を行った。平成22年度は、その詳細な情報伝達系を明らかにするために、マウスの心室筋細胞を単離し、patch-clamp法による電気生理学的、薬理学的な検討、ビデオ画像解析による細胞容積変化の検討を行った。その結果、PDK1抑制薬であるOSU-03012は心室筋細胞にATP減少をもたらす(Biomed.Res.2010)が、PDK1そのものもVRACを調節していることが示唆された。VRACは、細胞容積調節に加え、様々な機能が報告されている、生物にとって重要なチャネルであるが、その分子実体や詳細な調節メカニズムは未だ明らかでない。今回の報告は、VRACの調節メカニズムに、新知見を加えるものである。
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