研究概要 |
グルコシルセラミド合成酵素(Ugcg)は数百にも及ぶスフィンゴ糖脂質(GSLs)分子の合成過程において最初にグルコースをセラミドに転移する最も重要な酵素で,その完全欠損は胎生期致死に至る。しかし,ヘテロ接合体が無症状に見えることからUgcg機能の解析が進展していない。本研究では,まず,内在性Ugcg遺伝子の両アリルをダブルノックアウト(DKO)したES細胞に相同遺伝子を導入し,完全欠損から過剰発現までUgcg発現の定量的差異に基づく遺伝子機能解析系の樹立を試みた。Ugcg DKO-ES細胞の樹立には成功したものの,残念ながらCre/loxP組換え系あるいは薬物誘導発現系,蛍光タンパクによる可視化を目的とする安定なクローンは得られなかった。 一方,セラミドを小胞体からゴルジ体へ特異的に輸送するセラミド細胞内選択輸送タンパク質(Ceramide Transfer Protein : Cert)も,Ugcgと同様にGSLsの合成過程で重要な機能を担うことから,その欠損が胎生期致死を導くことが予想されたが,培養細胞の解析では顕著な異常が観察されないため個体レベルでの検証が求められていた。本研究ではCre/loxP組換え系により任意の発生段階や組織(細胞)でエクソン5を欠損するCertコンディショナルノックアウトマウス(CKOM)の樹立に成功した。さらに,その前核期受精卵の前核にpCAG-Creプラスミドを顕微注入することによりCertノックアウトマウス(KOM)ヘテロ接合体を作製,系統化した。このマウスは各臓器でのCert遺伝子およびタンパク質発現量が共に野生型の半分程度であったが,雌雄ともに外観に顕著な異常を示さず,繁殖能力もあった。しかしながら,Cert KOMホモ接合体は,産仔として得られず,胎齢8.5日目から成長が停滞し形態的異常が認められ,胎齢10.5日から11.5日の間に死亡した。CertCKOMは,胎生期致死を示す糖鎖関連遺伝子の新たな機能解析系として有用である。
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