超音波ドップラー血流計を用いて、120ワット(W)までの中程度の運動負荷時における中大脳動脈血流波形を経時的に測定した。結果は以下のようにまとめられる。 1.運動負荷によって中大脳動脈の最高血流速度および平均血流速度は上昇するが、最低血流速度はあまり変化しない。負荷終了後はいずれの速度もすみやかに安静時の値に戻る。 2.最高血流速度および平均血流速度は、定常運動負荷では急激に大きくなり、漸増負荷では負荷の増加に比例して大きくなる。また、これらの速度は心拍数と良い正の相関を示したが、血圧とは良い相関を示さなかった。 3.平均血流速度は安静時においても運動時においても女性が高い傾向を示した。 この結果について、血管径、ヘマトクリット、血中酸素濃度に関する生理学的データを参照してシミュレーションを行った。その結果、中大脳動脈血流が女性で大きいことは、男性に比べて低い血中酸素含有量に対して末梢への酸素供給を同程度に保つ補償的メカニズムであることが示唆された。 4.脳血上流の力学的指標として流速変動度および抵抗指数を算出した。その結果、両者とも運動負荷とともに増大することが明らかになった。これらの結果は血管壁にかかる力学的負荷が増大したことを意味する。 ストレス(本研究では運動負荷)によって生じる脳血流変化を経時的に測定することは、脳循環の理解という生理学的な重要性に加えて、脳血管病変、人間工学、健康科学などに関連して重要な情報を与えると考えられる。
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