現在、骨欠損部の補填には自家骨や水酸アパタイトなどのバイオセラミックスが臨床的に利用されている。自家骨は骨芽細胞の存在しないところに骨を形成する「骨誘導能」を有するため、優れた骨癒合が得られるが、健常部位からの採取に伴う二次的な侵襲や採取量の限界などの問題がある。一方、水酸アパタイトはいつでも誰でも利用できる人工材料であり、インプラント時にホストの骨と直接結合する特性を示すが、「骨誘導能」が欠如しているため、確実な骨癒合が得られないという問題がある。そこで、本研究では、自家骨中のアパタイトと人工的な水酸アパタイトとの相違点のなかで「自家骨中のアパタイトのもつナノ欠陥構造」に着目し、まず「ナノ欠陥構造と生体活性との関連性」を明らかにし、ついで「骨誘導能を備えた次世代型バイオセラミックスの創製」を目指す。 本提案では、自家骨に匹敵する生体活性を人工材料(バイオセラミックス)に付与させるという目標を達成するため、次の3つの課題:1)ナノ欠陥構造による生体活性発現メカニズムの解明、2)ナノ欠陥構造の導入プロセスの構築、および3)骨誘導能をもつバイオセラミックスの開発を推進する。 特に、H20年度は1)のテーマに注力した。より具体的には、生体骨中のアパタイトが種々のイオンを含んだ歪んだ結晶構造を備えていることに注目し、「骨ミネラルを含有したアパタイト粉体」の合成方法を調査し、その合成条件の確立に成功した。さらに、得られた骨ミネラル含有アパタイトから緻密なセラミックスを作製する条件についても明らかにした。このモデル材料のナノ欠陥構造を含む超微細構造を調査するため、高分解能透過型電子顕微鏡を用いて、その超微細構造を観察したところ、純粋なアパタイトに比べて、より多くの欠陥構造を包含していることが分かった。 次年度以降は、このモデル材料の欠陥構造を精査するとともに、骨芽細胞の分化誘導も含めて生物学的評価も推進する計画である。
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