対象:健常列15名、肥大型心筋症20名で正常洞調律の患を対象とし、経胸壁心エコー・ドプラ法を実施した。安静時に左室心基部と心尖部の左室短軸断層像を1心周期記録し、超音波診断装置のハードディスク内に記録した。組織トラッキングモードに切り替えた後、各々の断面の動画ファイル上で時計表示で12時の方向から任意の8点を等間隔に指定し、組織トラッキングにより1心周期における8点の軌跡を自動追跡させ、各指定点間の距離を1フレーム毎に算出した。これより求められた以下の指標について検討を行った。1)内径短縮方向のストレイン:左室短軸収縮方向のストレイン2)円周方向のストレイン3)回転角度:各フレームにて8点の中心を自動計算し、各4点と中心とのなす角度(θ)の平均から回転角度をそれぞれ求めた。さらに、パルスドプラ法にて左室流出路血流速度波形、左室流入血流速度波形を記録し、上記により得られたストレイン曲線と重ね合わせることにより、大動脈弁閉鎖点(AVC)、僧帽弁開放点(MVO)を同定し、左室駆出終了点、左室等容拡張時間、左室流入開始の時相と心尖部、心基部での伸展開始点との関係を検討した。また、左室流出路血流速波形より、最大拡張早期流入速度(E)、最大心房収縮期流入速度(A)、E波の減速時間(DcT)、弛緩機能の指標としてカラーMモードにより左室流入伝播速度(Vp)を記録し、上記ストレイン指標との関連の検討を行った。結果:健常例では心尖部の伸展開始は心基部と比較して早い一方で、肥大型心筋症では心尖部の伸展が遅れていた。さらに心基部と心尖部の伸展開始時間差は等容弛緩時間との間に良好な相関を示した。結論:左室心尖部一心基部間の伸展開始時相差は、等容弛緩時間と相関を認め、左室拡張能を規定する一因であることが示唆された。
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