研究概要 |
本年度は,生体モデルとして浮遊性のヒト組織球性リンパ腫細胞株U937を用いて,高周波領域の超音波の安全域と,生体反応の発現域を明らかにするために,超音波が誘導するシグナル伝達をパラメータとして報告する.高周波領域の超音波の周波数と強度から得られる,生体反応の発現域と安全域を明らかにすることを研究の目的としており,安全域を明確にするためには,超音波強度の指標が必要であるため,超音波強度の測定を重点的に行った.カロリメトリ法はサンプルの温度上昇を熱電対で測定し熱電対の位置を試験管中央部,最下部,最上部で測定した.各測定部位での結果に大きな差が見られなかったことから,サンプル全体に照射された超音波強度を正確に見積もることができる測定法だと考えられる.細胞溶液に超音波を照射することが本研究の主な実験方法であることから,溶液全体での平均強度を用いることが望ましい.したがって,本研究では,これらの実験結果から,カロリメトリ法により得られた強度を超音波強度として用いた.超音波照射による細胞の増殖率は細胞計数分析装置を使い,細胞数を測定し,未照射細胞と被照射細胞との細胞数の割合から算出した.細胞膜損傷の結果と照らし合わせたところ,周波数5.7MHzにおいて,細胞増殖能に変化が見られた.そこで,超音波が細胞周期の停止やアポトーシスを誘導させる可能性を蛍光試薬PIとAnnexin V-FITCを用いて,フローサイトメーターにより検証した.その結果,細胞周期は停止せず,アポトーシスを誘導することが明らかとなった.周波数5.7MHz超音波においても,ある一定以上の強度で生体に照射することにより,照射後の細胞死誘導を招くことが明らかとなった.
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