研究概要 |
予測的姿勢制御(Anticipatory Postural Adjustment APA)は、随意運動に先立って姿勢筋に出現する予測的筋活動であるが、前年度の健康若年者のリーチ動作の繰り返しによる学習効果を調べた際に、パフォーマンスの学習による改善よりも少ない繰り返しによって、APAの変化がより早期に出現することがわかった。このことは、姿勢調節の学習がパフォーマンスの学習に先だっておこることを示しているが、この適応性変化がどのレベルでおこっているかは不明である。今年度は、その点を明らかにする目的で、利き手でおこった学習効果が非利き手にも転移するかどうかを調べた。転移とは,学習された結果が異なる文脈であっても同様のパフォーマンスを発揮することが出来ることと定義される.リーチ動作の運動課題で転移が起こるか,姿勢筋に先立った変化が起こるか,左利きの結果は右利きと違いがあるかを調べた。健常成人10名を対象とし,リーチ動作を1日100回繰り返し行わせた。同一被験者を3日間連続して記録した後,1日休みを取り,その翌日にも同様の手法で再度記録した。その結果,訓練した利き手ばかりでなく、訓練していないにも関わらず非利き手のパフォーマンスが向上し,利き手の学習効果は非利き手に転移された。そして,パフォーマンスの向上に先行して予測的姿勢制御が早期化する傾向が見られ,リーチ動作における学習効果の転移には姿勢制御システムの関与が示唆される。また,左利きにおける転移は右利きと比べ結果に差が無いということが示された。転移がおこったことは、その動作に関与する運動単位ばかりではなく、中枢神経系内での適応性変化が生じたことが示唆される。
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