過去3年間の結果を踏まえ、昨年度実施した荷重刺激より負荷量が多い歩行による影響を分析した。また廃用性筋萎縮および再荷重に対する反応を、筋長軸部位別に組織形態面から検討した。 8週齢のラットを1週間の後肢懸垂後、(1)1週間通常飼育群、(2)更に1週間後肢懸垂(懸垂前後)群、(3)歩行介入群、(4)通常飼育群に分類した。廃用性筋萎縮の作製には後肢懸垂法を用いた。歩行は先行研究データを参考に、小動物用トレッドミルを用い、0~10m/minで5分走行、2分休止を8セット実施した。歩行群は介入開始1、7日後時点で麻酔後、右側ヒラメ筋は瞬間冷凍し-70℃で、左側筋はRNA安定化試薬に浸透し4℃で保存した。凍結した右側筋はHE染色にて観察・分析した。左側筋はmRNA抽出後PCR法を用い、目的遺伝子は機械的刺激後に分泌され細胞増殖促進作用のあるMGFと筋特異的転写因子の一つであるMyoDとし、MGFは機械的刺激量の指標、MyoDは筋衛星細胞活性化の指標として用い、ハウスキーピング遺伝子GAPDHで半定量した。 歩行の萎縮抑制程度は小さかったが、単回の介入後は歩行刺激が最も筋横断面積を増大させ筋機能の改善を示唆した。機械的刺激量は荷重よりも歩行の方が犬きい傾向が、MGFの結果から示唆された。今回用いた歩行運動は脆弱した廃用性萎縮筋に対して負荷が大きかった可能性が考えられ、筋横断面積の回復を認めた一方で損傷像も多く確認された。MyoDの増大を認めず損傷が原因か否かは不明であるが、過負荷による筋損傷を避けた、安全かつ効率的な運動負荷量の設定には、MyoDファミリーを指標とし、病理組織学的な評価を加えることが有用と考えられた。 リハビリテーションの場面では、長期臥床期間後に歩行練習を実施する場合が多いことから、廃用性萎縮筋に対する歩行と荷重刺激に対する反応の違いを詳細に分析し、より効果的かつ効率的な理学療法介入方法の導入が必要であり、本研究はその基礎データを提示した。
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