本研究の目的は、音声言語の獲得臨界期を越えた10歳以上の聴覚障害児で、かつ乳幼児期から文字言語を導入した方法で訓練を受けた聴覚障害児を対象として、音声言語と文字言語の能力を評価し、聴覚障害児の日本語獲得に文字言語を早期から導入することの意義を明らかにすることである。 平成21年度は前年度に引き続きWISC-IIIとWAIS-IIIのデータを収集した。検査ができた対象者はWISC-III9名、WISC-IIIが10名で計19名施行できた。被験者の平均年齢は17.9歳(10-39歳、中央値19歳)であった。19名全体の言語性IQ(VIQ)は平均94.6で54-122の範囲であった。動作性IQ(PIQ)は平均111.2で87-129の範囲にあった。VIQが85以上であったものは13名で平均103.2(85-122)、VIQが85未満であったものは平均72.4(54-84)であった。また、VIQが85以上であったもののPIQの平均は109.6(94-129)であり、VIQが85未満のもののPIQの平均は115.4(106-126)で、両群でPIQ値に差はなかった。本年度のもう1つの成果として挙げられるのは、20歳以上を超えた対象者8名に検査が施行可能であったことである。これらの対象者の平均聴力レベルは84.0dBで、8名中5名は80dB以上の高度難聴であり、全例手話ではなく音声言語で日常生活を送っていた。
|