本研究の目的は、音声言語の獲得臨界期を越えた10歳以上の聴覚障害児で、かつ乳幼児期から文字言語を導入した方法で訓練を受けた聴覚障害児を対象として、音声言語と文字言語の能力を評価し、聴覚障害児の日本語獲得に文字言語を早期から導入することの意義を明らかにすることである。 平成22年度は前年度までに収集したウエクスラー知能検査の言語性IQ値に作用する項目について検討した。検査時の年齢、訓練開始年齢、補聴器装用域値レベル、動作性IQ(PIQ)のいずれの項目においても有意にVIQ値に影響を与える項目はなかった。PIQ値に作用する項目の検討では、検査時年齢とVIQ値に有意に影響を与えていなかったが、訓練開始年齢と補聴器装用域値レベルはPIQ値に有意に影響を与えていることがわかった。ステップワイズ法による検討では、PIQ値もVIQ値も検査時年齢が有意に影響を与えていることがわかった。さらに読書力検査(文字の読解)成績はウエスクスラー知能検査のVIQ値(言語性IQ)と高い相関を示した。乳幼児期から文字言語の導入は聴覚障害児の音声言語獲得に意義あるものであると考えた。
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