研究概要 |
本研究過程で提案した仮想環境内で行う運動(VRスポーツ)は,スポーツ映像を用いた視覚課題に対し身体活動を行うものであり,得点が表示されるなど娯楽性を有する.今年度は高齢者を対象としたVRスポーツによるレクリエーションが身体機能のみならず認知心理面に及ぼす相乗効果について検討を行った.施設利用者を対象に十分な説明ののち参加者(VRスポーツ群)を募り,種目としてテニス,卓球,ゴールキーパー,空手(瓦割り)を用意し自由に選択し実践した.身体機能評価は,握力,片脚起立時間,timed up & go test, 10m歩行時間を計測し,僅かな筋量変化を非侵襲的に計測可能な高精度筋量計(Physion MD)を使用し上下肢筋量を測定した.認知心理面については,改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)とHospital Anxiety and Depression Scale (HADS)を使用し初回と3ヶ月後に再評価し比較した.3ヶ月間継続可能であった者は10名(平均79.2歳)で,通常の施設内レクリエレーションを行う群(10名:平均78.6歳)を対照群とし比較した.VRスポーツ群は下肢筋量体重比が平均1.1%と僅かに増加し,HDS-Rにおいては開始時18.3点から終了時20.7点と改善傾向を示したが有意差は認めなかった.他の評価項目では大きな変化は示さず,各評価項目の3ヶ月間の変化を対照群と比較した場合でも有意差は認めなかった.本研究で用いた仮想環境を利用した運動はレクリエレーションの一つとして利用可能であるが,身体機能及び認知心理面の改善に及ぼす相乗効果については明言できず今後の検討が必要である.VRスポーツはスポーツ種目としてのリアリティを有する映像を提示したものであるが,高齢者では明瞭な視覚目標の設定や簡単なルール作りが重要と考え,今後新たな視覚映像を開発していくことが課題である.
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