研究概要 |
本研究の目的は,身体機能を補う機器がどれだけユーザ本意のものであるのかに焦点をあて,a)身体機能補完技術の種類によって身体化の有無が異なるのかどうかを調査し,その理由を探り,b)視覚障害者の白杖利用を対象として対象認知のために必要となる感覚情報を特定し,感覚情報と機器の身体化との関係を明らかにし,さらにa)とb)の実施を通して、機器の身体化を指標とする身体機能補完技術の評価システムモデルを構築することを試みることである。平成20年度においては,主にb)白杖を用いた探索行動の分析に関する次の様な基礎的成果が得られた.日常的に移動時に白杖を利用する全盲視覚障害者と晴眼大学生を対象として,白杖を用いた触知覚(間接的触覚)に関する基礎的な知見を得るために,マグニチュード推定法を用いて,利き手で握った白杖を用いた場合のゴムの硬度と硬さ感覚の関係を実験的に明らかにした.このとき,両被験者群に対して,アイマスクとヘッドフォンにより視覚情報と聴覚情報を制限した.その結果,全ての条件において,冪指数が1よりも小さかったため,ゴムが硬くなるにっれて硬さがかなり増加しても硬さの感じはそれほど増加しないことになる.そして,全盲視覚障害者と晴眼大学生の両方で,白杖を用いた場合には,両者とも叩いても押しても同じ冪指数であったが,大学生では指で叩くよりも白杖の方が相対的に硬さの変化に対する感度が良く,全盲視覚障害者は指と白杖であまり変わらなかった.さらに白杖を用いた場合の罵指数は,全盲視覚障害者よりも晴眼大学生の方がより1に近く,白杖という道具の利用による対象の硬さ知覚は,晴眼大学生において効果が大きい事になる.これにより,1)環境知覚の道具としての白杖設計に資する基礎的な知見と2)間接的触覚に関する考察が得られた.
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