研究概要 |
(1)両耳聴信号処理に適したウェーブレット変換について,国内外の情報を収集するとともに実際にシミュレーションを通して検討を行った.その結果,Meyerウェーブレットが周波数分離能および,局在化の上で優れていることがわかった.さらに最近,戸田,章らが提案した完全シフト不変性を実現する複素数離散ウェーブレット変換が優れていることも明らかになり,完全シフト不変性複素数離散ウェーブレット変換(PTI複素ウェーブレット)を本手法に用いることが有効であることがわかった. (2)本申請で購入した有限要素法解析ソフトを用いて,鼓膜・耳小骨から成る,有限要素法中耳モデルを作成した.鼓膜面に貼り付けるコイルの適切な質量・位置について,解析を行った.その結果,コイルの質量が20mg以下であれば,高周波数域においても,伝音特性には影響を及ぼさず,コイルによる加振力が中耳から内耳へと効率よく伝達されることが分かった.また,位置についてはツチ骨部先端(鼓膜面中央部)に張り付ければ,伝音特性が最も良いことがわかった. (3)バイノーラル音声収集装置を用いて,必要な音声データを収集した.音声は,無響室での収録の他,実環境において,発泡スチロールのダミーヘッドを用いて収録した (4)ウェーブレット変換による音声分離法の有効性を確認するために,音声データベースと頭部伝達関数を用いて原音を作成し,提案法並びに,FDBMとの分離性能について,被験者10名による主観的評価実験を実施した.その結果,提案法は,少ない帯域分割数(処理帯域数)にもかかわらず,FDBMに遜色をとらない性能を有し,かつ自然性が損なわれないことが明らかとなった. (5)接続回路の検討,特性補正の検討については,来年度以降さらなる検討が必要である.
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