研究概要 |
(1)昨年に引き続き,両耳聴信号処理に関する国内外の情報を収集するとともに,実際にシミュレーションを通して検討を行った.章らが提案した完全シフト不変性を実現する複素数離散ウェーブレット変換が優れていることも明らかになり,完全シフト不変性複素数離散ウェーブレット変換(PTI複素ウェーブレット)を本手法に適用する方法を考案した.これをMATLAB上に実現し,アルゴリズムの性能をシミュレーションにて評価できるようにした.計算量が少なく,性能ともに向上したことが確認されたが,最適パラメータの算出は,今後の課題となる. (2)鼓膜加振型デバイスの試作にあたり,加振によって,デバイス自身の形状や材料の機械的特性が振動の減衰特性にどうのような影響を及ぼすかは,これまで明らかにされていなかった.そこで,21年度は,補聴器の形状を模した耳栓,および,ヒト頭部を,本研究費により購入した有限要素解析ソフトを用いてモデル化し,振動の減衰特性を評価した.耳栓の材料としてポリウレタン,シリコン,ABS樹脂等の物性値を用い,ヒト頭部については,骨の主成分であるハイドロキシアパタイトの物性値を用いた.その結果,加振により発生した振動エネルギーの多くが,ヒト頭部内に伝達されることが確認された. (3)新たな音声強調手法として,TS-BASE/WTを提案した.これは,従来周波数領域で研究代表者らが提案していた行っていたTS-BASE/SDMFにウェーブレット変換を適用したものである.検討の結果,少ない帯域数(約50バンド程度)でも,帯域数(500バンド)のFFTを用いた従来の音声強調法に遜色ない性能があることがわかった. (4)収録したバイノーラル音声データを用い,アルゴリズムの実時間処理を検討した.DSPICを用いて適用を行った.DSPICの性能上高いサンプリング周波数では計算量が不足したが,動作させることができた.
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