本研究では、足関節を対象として、他動運動訓練機器の適用が末梢組織の循環状態に与える影響を実験的に解明することを目的としている。この目的を実現するため、平成22年度には、脳血管疾患罹患経験を有し、左片まひの後遺症がある被験者1名の協力を得て、末梢循環状態に関連すると予想される生体信号の、日常生活における時系列変化に関する計測実験を行った。実験は、被験者の日常生活空間である老人保健施設において実施し、下肢の皮膚表面温、組織血流量、血中酸素飽和度等の生体信号を計測した。計測期間中、被験者は車いす座位で安静を保ち、食事や排泄は通常通り行われた。計測の結果は以下の通りである。計測期間を通じて室温は約0.8度の上昇が見られたのに対し、被験者の皮膚表面温は左右いずれも低下する傾向を示した。計測期間を通じて、表面温の左右差は認められなかった。組織血流量については、右側では時間の経過とともに増加の傾向を示したが、左側では減少の傾向を示した。血中酸素飽和度については、左側が右側より低い傾向を示した。足部の周径については、計測を行っていない日のほぼ同時間帯を基準として、両側で周径が増加したが、特に左側の増加率が大きかった。以上をまとめると、組織血流量や血中酸素飽和度については、患側の循環状態の低下に関連すると考えられる事象が認められた。一方、皮膚表面温の変化については、これらとの関連性は低いと考えられた。他動運動訓練機器の適用が末梢組織の循環状態に与える影響を評価するために、こうした結果を踏まえて生体信号間の重み付けを行う必要があるという結論が得られた。研究期間を通じて得られた成果を取りまとめるとともに、得られた成果について、理学療法士の学術大会を含む2件の口頭発表を行った。
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