平成22年度は当該研究期間の最終年度にあたり、当初の目的どおり平成20~21年度において得られた研究成果について総括し実験心理学・心理生理学・神経科学系の国際学会において発表を行った。本研究では、視覚標的に手を伸ばして掴む動作課題と、掴み動作と同様の手指関節動作を視覚によって認識した標的の大きさに対応させるという認知課題を用いて、課題動作中の脳波の周波数領域における分析によって、視覚情報を処理して課題に応じた動作を形成する過程について、皮質レベルの活動の観点から検討することを試みた。課題遂行中の皮質部位間の情報の流れを検討するCoherence(コヒーレンス)分析によって、機能的に異なる役割を担っている皮質の各部位がどのように連携しながら動作が遂行されているかを明らかにすることができた。認知的情報処理の関与を検討するために視覚標的として錯視を誘発する図形を用いた。これに対する動作課題および認知課題パフォーマンスについては、「認知機能の観点からは動作課題は錯視の影響を受けない」という主張について関連する一連の先行研究において論議が展開されてきている。これに関して本研究では、動作課題においても錯視が影響するという結果を得た。これは研究当初の予測には反するものの興味深い知見である。そこで、被験者を錯視の影響を受けた群と受けなかった群に分けて脳波分析を行った揚合、錯視の影響を受けた群のコヒーレンスは、後頭野-頭頂野で顕著であり、錯視の影響を受けなかった群では前頭野内での部位間および前頭野-後頭・頭頂野間でのコヒーレンスが顕著であった。そのため、この点に関してさらなる分析および先行研究の検討により解釈を深めることに時間を費やすことを主眼とすることとなった。したがって、当初予定していた論文作成には遅れが生じ、現在進行中であるものの、平成23年度中に心理生理学または実験心理学系の国際誌への投稿予定である。
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