スキャモンの発育曲線にみられるように、幼児期から小学校の低学年までは神経系の発育が著しい。したがって、この時期に適切な運動刺激を加えることにより神経系の発達が促され、動作の「巧みさ」に正の影響を与えるといわれている。子どもの運動能力の低下、運動嫌いが深刻な社会問題のひとつとなっている昨今、この「巧みさ」、すなわち「スキル」の獲得過程を縦断的に捉え、効果的な訓練プログラムを構築することは体育・スポーツ科学における最も重要な研究課題のひとつであると考えられる。 我々はこれまで幼児期(年少:4歳児、年中:5歳児、年長:6歳児)の跳躍動作を対象に二次元動作解析を行い、下肢の各関節(股関節、膝関節、足関節)における角度変化曲線間の順次性を指標として「運動伝導」を調べ、バイオメカニクス的な観点から動作の「スキル」の獲得過程を評価してきた。本研究では、今後、さらに3年間のデータを追加し、この「スキル」の獲得過程を、幼児期から小学校低学年(一年生:7歳児、二年生:8歳児、三年生:9歳児)までにわたって縦断的に捉えることを目的とした。 今年度の成果としては、同一幼児11名の幼児期三年間(年少→年中→年長)のKinematicsデータを解析した。跳躍動作における「しゃがみ始め」局面と「伸び上がり」局面に着目し、股関節・膝関節・足関節に対して、伸展と屈曲の時機を4歳、5歳、6歳間で比較した。発育発達に伴って「しゃがみ始め」局面における関節の屈曲のタイミングに違いは見られなかったが、「伸び上がり」局面においては、5歳から6歳の間で、膝関節と足関節における伸展のタイミングが遅くなり、動作の獲得における変容がみられた。これらの結果は、二次元映像解析を用いて、幼児の発育発達に伴う跳躍動作の「スキル」獲得過程を定量化できたことを示唆していた。
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