北海道内各地域において無形文化財に指定されている伝承芸能、特に「獅子舞」について、舞踊譜による保存を試みるために、初年度は「千歳市泉郷獅子舞」を研究課題の糸口と位置付け、現地聞き取り調査、映像資料の撮影、文献の収集を実施した。この「千歳市泉郷獅子舞」に加えて道央圏の6つの無形文化財指定の獅子舞(「丘珠獅子舞」「芦別獅子舞」「富良野獅子舞」「納内猩々獅子」「猩々獅子五段くずし」「多度志獅子舞」)についても現地調査を実施、映像資料、及び文献資料の収集を行った。さらに、当初計画の調査対象に付け加えるべき無形文化財としての獅子舞が、新たに2008年度に無形文化財に指定されたものも含めて、存在することが調査の過程で判明した。同時に、文化財保護法にその根拠を置く行政における支援のあり方、伝承芸能を地域の中で伝えるための後継者問題なども含めて、後世に伝え残す舞踊譜の果たす役割の重要性を改めて認識している。 当該研究のテーマである「舞踊譜」による記述保存については、世界的にも高い評価を得ている舞踊譜「ラバノーテーション」の表記方法では対応できない問題、特に踊り手の上半身が胴幕によって隠れてしまう点をどう舞踊譜に記述するかという問題に直面した。それゆえに当該研究者によるオリジナルな舞踊譜表記法の検討が必要であると考えている。保存継承のために肝要なのは、あまりにも専門的すぎないようにすることの一点に尽きるのであり、従って、「ラバノーテーション」よりさらに簡便といえる舞踊譜記述法によっても、復元が可能といえるものを検討していくべきだと考える。「ラバノーテーション」の基本概念の上に立って、より簡便な舞踊譜記述方法を検討すること、及びモーションキャプチャー技術の応用を目指すことに大きな意義があると考える。映像資料については、舞踊譜記述の方法論から共通の視点に立った撮影が必要である。既に撮影済みのものについては、その共通の視点に立って再度撮影を実施する必要がある。
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