研究概要 |
本研究では、幼児期において,身体的コミュニケーションを豊かに営むことが、他者とかかわる力の獲得にどのような影響を与えるのか、その後の社会で生きる力にどのように繋がるのかという問題提起を軸にして、幼児の「身体による模倣」に焦点を当て、その意味や機能を明らかにすることを目的としている。並行して模倣発現のプロセスに深く関わる「感性」の働きを検討することを試みる。 平成20年度には,以下の3つの方向から研究を進め成果を得ている。 1.基礎的研究として,身体的コミュニケーションとしての模倣について心理学,文化人類学,その他社会的生活の文脈から論考を試みた。相互行為としての身体による模倣を研究する意義が明らかにされ,また幼児期の相互行為としての模倣を焦点とした研究が不足していることも指摘された。 2.保育者のエピソード記述収集と分析・観察に基づき,幼児期の相互行為としての身体による模倣機能の類型化と検証を行った。その結果,幼児の模倣機能が「動きはじめのきっかけやタイミングを求める」「動きをなぞらえたりやりとりをしたりして楽しむ」「自分の動きやイメージを意識する」「自分にないイメージや動きのアイディアを取り込む」の4つに分類された。引き続き,それらの機能を幼児の日常生活において考察し,模倣機能類型化の有効性を実証した。 3.調査・統計分析に基づき模倣発現の基盤となる「幼児の感性尺度」を作成した。感性とは,自己の内奥にのみ向かうのではなく,他者を含めた社会・環境に向かっており,自己の社会化の程度すなわち自己理解と他者理解の程度が,感性の形成や発揮を規定していると考えられた。その意味で,感性は他者とのコミュニケーションを促進させる基盤となる可能性が見いだされ,身体による相互行為としての模倣に通じるものが具体的に認められた。
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