本年度は、主に体育教師としての力量を飛躍的に高めた経験、また、体育に対する信念の形成に影響を与えた経験とそこから学びとった経験知を明らかにすることを目的とした研究を行った。まず、スペシャリストの成長過程と学習に関わる諸研究および教師の成長・職能発達・実践的知識等に関わる内外の諸研究を収集し、分析枠組の検討を行った。次に、優れた体育授業を実践している教師5名を対象に予備的な半構造化インタビュー調査を実施し、体育授業の実践に関わる資質・能力を成長させるきっかけとなった体験を収集した。発言内容の分析によって、優れた体育教師が育つ学習機会やイベント、職場内のコンテクスト、イベントから学ばれる内容等の仮説的構造を定式化した。この結果、体育教師の成長は、日々の授業実践に関わるリフレクションを基にした段階的で漸進的な過程の側面と、研究会・授業公開等の機会で生じた外部者からの知識提供や対面的コミュニケーションを通じた飛躍的成長過程という両側面が存在することが明らかとなった。また、知識のレベル(目的・目標レベルの知、内容レベルの知、教授方法レベルの知)によって、成長過程と成長を促す学習機会が異なるであろうことが示唆された。特に、体育授業や体育実践の目的や理念に関わる知識や信念の変容や成熟については、日々の個人内授業リフレクションでは困難であり、同僚や外部指導者との相互リフレクションが有効だと推察された。来年度の本調査に向けて、調査方法の精緻化を図るとともに、経験の内容分析をより一層厳密にしていくことが必要である。
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