【目的】剣道難聴の発生原因として打撃振動が考えられることから、打撃力や振動を緩衝するような「面」の改良・開発研究は急務である。本研究では、剣道の打撃力特性を明らかにするとともに、面を装着した際に頭顔部に密着する内輪上部「いせ」と面布団との構造によって生じた面布団前上部の形状が、打撃力の分布やその緩衝性にいかなる影響があるかを明らかにするものである。 【方法】<実験1>竹刀による打撃時の振動特性について:これまで実施・蓄積してきた剣道選手の打撃力波形を詳細に分析し、振動特性を明らかにした。 <実験2>面の安全性を高めるための開発研究(「いせ」の効果について):1)試験材料:内輪および布団の芯材を変えることなく、「いせ」があるものと無い面材料を製作し比較した。布団は8mmミシン刺しである。2)打撃力分析:自製の打撃力測定装置一式(キスラー社製センサー9067型)を使用し、作成した双頭型打撃測定用ヘッド{(前頭部(内輪部)と頭頂部(布団部)を分離してある}に各種面を装着し、打撃力発生器により打撃(重量:520gのカーボンシナイ使用、打撃強度約100kgf)した際に生じる打撃力(Fz:垂直分力、Fy:前後方向分力)について面の内輪部(前頭部)と布団部(頭頂部)への打撃力分布や振動特性を明らかにした。 【結果】(1)打撃力の作用時間は、技能・年齢:性・部位によって異なっているが、概ね2~9ミリ秒の範囲にある。波形は2峰性が多く、作用開始から0.33~2.74ミリ秒の棘波が認められ、剣道難聴発生周波数域および剣道騒音周波数域との関連が示唆された。(2)竹刀の打撃角度が大きくなるにしたがい、打撃力は、前頭部の内輪上部に加わる割合が高くなり、「いせ」の高い材料は打撃力の緩衝性が高くなった。(3)面打撃の緩衝性を高めるためには、面布団だけでなく、面の内輪上部「いせ」やその芯材についても考慮する必要がある。
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