最終年度の平成22年度は本研究では、前年度までの研究から明らかにされた、「感情の意識化」と関与しているとされた右前部島皮質の活動に注目し、「情動の賦活(身体末梢)」→「右前部島皮質の賦活」→「感情の意識化」→「感情コントロール技法の実施」→「右前部島皮質の活動低下もしくは身体末梢の覚醒水準低下」→「知覚された感情の低下」→「感情のコントロール」というトレーニングの効果モデルを検証することを目的とした。さらに、これらのモデルを用いたバイオフィードバック・トレーニングの開発も試みた。 実験では、島皮質の賦活が見られることが確認されている、Delayed Feedback課題を用いて、自己のパフォーマンスに関する情報(フィードバック情報)が与えられるような状況を設定し、その剌激に対する情動反応について脳活動を測定した。さらに、各脳領域間の活動が上記モデルに当てはまるかfMRIのデータを用いてEffective Connectivityの検討を行った。その結果、島皮質から情動関連領域(ACCやOFC)への連絡、および注意システム(背側注意システム)への連絡が確認され、情動系の過度な賦活が、右前部島皮質を介して注意システムの崩壊をもたらしていることが示された。 さらに、これらのモデルを元に脳波を用いたバイオフィードバック・トレーニングシステムの開発も試みた。バイオフィードバックシステムでは島皮質の活動を捉えるために右前側頭部のβ波およびα波を捉え、そのパワー値を視覚的にフィードバックできるシステムを構築した。トレーニング効果には個人差があるものの、主観的な感情得点と脳波のパワー値の相関が見られ、島皮質の活動を反映すると思われる脳波を用いたバイオフィードバック・トレーニングシステムの有効性が示唆された。
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