研究概要 |
本研究は,野球においてバットの物理的な諸特性がスイングにどのように影響を及ぼすかという,従来からの研究課題に対して,バットスイングに関する新しい技術評価の方法を適用して検討するものであった。 本年度も前年度に引き続き,前々年度に開発された実験用バットを用いて,実際にボールを選手によって打撃する打撃実験を行った。被験者は10年程度以上の野球経験のある大学野球選手10名とし,バットは付加する錘の質量と錘の取り付け位置を変化させ,25種類の組み合わせの設定とした。被験者には,バッターボックス内で試合と同じ位置で構えさせ,験者がトスする実験用ボールを打つように指示した。バット設定1種類につき10回の打撃をさせ,スイング中にバットに加わる加速度をグリップエンド内部の加速度計により測定し,選手のバットスイングを評価した。 その結果,被験者のスイングは再現性が高く動作が定型化しており,スイング動作は選手それぞれで固有のものとなっていた。そのために,質量や重心位置の異なるバットをスイングさせても,それらバットの特性の変化に対する反応は,選手それぞれで異なった。すなわち,バットの質量や重心位置はスイングに影響するが,それらがどのように影響するか,どの程度影響するかは選手のスイングの個性によって異なり,バットの特性が変化しても各選手のスイングの個性は維持されていた。またそれぞれの選手について,バットの特性の変化に伴うバットに加えられる角運動量の変化から,その角運動量を最大にするバット特性の最適値を推定した。10名の被験者のうち2名で,スイングの再現性が低く算出された最適値に信憑性を欠いたが,他の被験者においては最適値が妥当であると考えられた。本研究で提案した最適なバット選びに関する最適値の推定精度の向上を図り,それぞれの選手のスイングに適合したバットの質量や重心位置を考える必要があろう。
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